深夜2時、夫に「30秒以内にこの家を出るぞ」と起こされた。数時間前まで、息子夫婦の新居で温かい歓迎を受けていたのに。夫の顔は見たことのないほど緊迫していた。「あの料理に睡眠薬が入っていた。お前の分だけ、必要以上に進めていただろう」——まさか、実の息子が?夫が聞いたという会話に、私は頭が真っ白になった。「あと数回で完璧よ。お母さんが認知症って診断書が取れれば、財産管理も全部私たちでできるわ」—…
深夜、夫の竜一の切迫した声で目が覚めた。 「照子、今すぐ起きろ。30秒以内にこの家を出るぞ。」 時計は午前2時を回っていた。数時間前、私たちは息子夫婦の新居に到着し、温かい歓迎を受けたばかりだった。 「どうしたの?何があったの?」 薄暗い寝室で、夫の顔は見たことのない緊迫した表情をしていた。40年以上連れ添ってきたが、こんなに慌てている夫を見るのは初めてだった。 「説明は後だ。とにかく急げ。荷物は最小でいい。大輔たちに気づかれるな。」 「照子、お前はまだあれに気づいていないのか。」 夫の真剣な眼差しに、不安が胸に広がった。息子の家で一体何が起きているのか。 数時間前、嫁のゆり子は満面の笑顔で私たちを迎えてくれた。手料理も振る舞ってくれて、幸せな時間のはずだった。しかし夫の様子は尋常ではない。何か恐ろしいことに気づいてしまったのだろうか。 震える手で上着を羽織りながら、得体の知れない恐怖に包まれた。 車で息子の家を離れながら、数時間前の出来事を思い返していた。 「お母さん、お待ちしてました。お母さんの好きな煮物、たくさん作ったんですよ。」 ゆり子の笑顔はいつもより明るく感じた。テーブルには確かに私の好物が並んでいたが、今思えば何か違和感があった。 「母さんのおかげで俺も健康だよ。43年間も栄養士として頑張ってくれて、本当に感謝してる。」 大輔の言葉もどこか取ってつけたような印象だった。 隣で運転する夫が重い口を開いた。 「あの寝室に置いてあった時計、見たか?」 「時計?気づかなかったけど…」 「あれはカメラだ。しかも複数。なぜ客間にそんなものが必要なんだ?」 背筋に冷たいものが走った。 「それにあの料理、お前は美味しいと言っていたが、俺は妙な味を感じた。特にお前の分だけ、必要以上に進めていただろう。」 確かにゆり子は「お母さん、もっと食べてください。健康のためですから」と、私にだけ何度もおかわりを進めていた。 「『健康のため』という言葉を、今夜だけで何回聞いた?15回以上だ。おかしいと思わないか。」 夫の観察力の鋭さに改めて驚かされた。そして、息子夫婦の家で何が起きていたのか、恐ろしい想像が頭をよぎり始めた。 深夜の道を走る車内で、夫は衝撃的な事実を語り始めた。 「照子、あの料理に睡眠薬が入っていた。俺は途中で気づいて食べるのをやめた。」 「睡眠薬?まさか大輔たちがそんなこと…」 信じたくない気持ちでいっぱいだった。実の息子がまさか私に薬を盛るなんて。 「残念だが、これは確実だ。実はトイレに行くふりをして台所の様子を確認したんだ。ゴミ箱に薬の包装が捨ててあった。」 夫は1枚の写真を見せてくれた。スマートフォンで撮影したらしい。その画像には確かに睡眠導入剤の包装が映っていた。 「でも、なぜそんなことを?」 「それを知るために、俺は夜中にリビングに降りていった。そこで、あいつらの会話を聞いてしまったんだ。」 夫の表情がさらに険しくなった。 「ゆり子が言っていた。『あと数回で完璧よ。お母さんが認知症だって診断書が取れれば、財産管理も全部私たちでできるわ』とな。」 頭が真っ白になった。認知症?財産管理? 「大輔も同調していた。『母さんの退職金3000万円は大きいからな。それに栄養士の資格も剥奪させれば、もう働けないし』と。」 息子の言葉とは思えない。吐き気を覚えた。43年間必死に働いて貯めた退職金。息子のためを思って節約し、教育費に回してきた日々。それがこんな形で狙われているなんて。 計画は相当練られていたようだ。 「ゆり子が続けていた。『定期的に睡眠薬を飲ませて、おかしな行動を録画する。それを証拠に医者に連れていけば、認知症の診断は簡単に取れるわ』と。だから寝室にカメラが…そうだ。お前が薬で朦朧としているところを撮影し、認知症の証拠にするつもりだったんだ。」 夫の説明を聞きながら、涙が止まらなかった。息子夫婦の恐ろしい計画は、私たち夫婦の人生を完全に破壊するものだった。 さらにひどいことに、ゆり子はこうも言っていた。 「『お父さんも邪魔になったら、同じようにすればいいわ。2人とも認知症なら誰も疑わない』と。」 隣で運転する夫の手が怒りで震えているのが分かった。 「あいつらはもう親とは思っていない。金を生む道具としか見ていないんだ。」 涙が止まらなかった。息子の大輔は小さい頃は素直で優しい子だった。私の作る料理を「母さんの料理が一番美味しい」と喜んで食べてくれた。大学の学費も、マイホームの頭金も、喜んで援助した。それがこんな報いを受けるなんて。 「照子、泣いている場合じゃない。あいつらの計画を阻止しなければならない。」 「でも、どうやって?」 「まず証拠を集める。そして弁護士に相談だ。お前は栄養士として薬物の知識も多少ある。それを武器に戦うんだ。」 夫の力強い言葉に顔を上げた。そうだ。43年間のキャリアは、こんな卑劣な計画に負けるためのものではない。 「竜一さん、私、戦います。息子だからって許せることと許せないことがあります。」 「その意気だ。俺たちはまだ負けていない。」 夜明けが近づく空を見ながら、決意を新たにした。息子夫婦の恐ろしい計画を必ず阻止してみせると。 自宅に戻った私たちは、すぐに行動を開始した。まず、私は栄養士としての専門知識を総動員して、昨夜の料理を分析し始めた。 「竜一さん、あの煮物の味、確かに違和感がありました。甘みの後に、かすかに苦みが残る感じが。」 「それだ。俺も同じことを感じた。」 … Read more