同窓会で、かつて俺をいじめていた金持ちの王光地が大声で言い放った。「お前、どうせ底辺の仕事だろ?…

同窓会で、かつて俺をいじめていた金持ちの王光地が大声で言い放った。「お前、どうせ底辺の仕事だろ?...

同窓会の会場に足を踏み入れた瞬間、懐かしい顔ぶれに少し驚いた。すでに70人近くが集まっている。欠席者も多いだろうと思っていたから、これは嬉しい誤算だった。

ドリンクを手にしていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには小笠原が立っていた。あの頃より少しだけ大人びて見えるが、ほとんど変わっていない。

「久しぶりだな、木村。元気にしてたか?」

「ああ……。その、連絡くれてたのに、返せなくてごめん」

小笠原は笑って手を振った。

「まだそんなこと気にしてたのか。相変わらず真面目だな」

その言葉に、俺はほっと胸を撫で下ろした。同窓会に来てよかったと心から思えた。

会場の隅には、井上さんもいた。高校時代からさらに磨きのかかったその美しさに、男たちの視線が集まっている。俺もその一人だが、奥手な俺には声をかけることすらできない。遠くから眺めるだけで精一杯だった。

そんな俺の心の平穏を、一瞬で打ち砕く声が響いた。

「よお、久しぶりだな。木村。相変わらず貧乏か?」

振り返ると、そこには王光地が立っていた。ハイブランドのスーツに金のネックレス、高級腕時計。悪趣味極まりない格好だ。

俺は社交辞令程度の会話で切り上げようとしたが、王光地は俺の腕を掴んで離さない。

「なあ、俺がどこに務めてると思う?」

「さあね」

「つまんねえやつだな。そこは『ランダムミュージック』って答えるところだろうが」

そう言って大笑いすると、王光地は胸を張った。

「いいか、俺はな、オルタナティブギターの営業として働いてるんだ。世界最高峰のギターメーカーだぞ。俺の会社名聞いて驚いただろう?」

俺は無表情のままだった。王光地に興味はない。

「高卒の貧乏人には、オルタナティブギターの価値が分からないみたいだな」

そして、王光地は周りに聞こえるように大声で言った。

「ところで木村、お前は何してるんだよ。どうせ底辺の仕事だろうけどさ。あ、ひょっとしてニートか?」

周りにいた人々が、そのあまりの勢いにこちらを見た。70人近い人々の前で、かつてのクラスメイトをここまで馬鹿にするなんて。

俺は腹が立って、王光地の手を振り払った。

「何だよ、お前。まさかやる気か?」

王光地は嘲笑う。俺は殴りかかったりはしない。ただ、胸に湧き上がる怒りを沈めることに専念するしかなかった。

翌日、出社した俺は昨日のことを思い出していた。忘れたくても忘れられない。あの後、俺は居心地が悪くなってすぐに会場を後にしたのだ。王光地のせいで、せっかくの再会が台無しになった。

気を取り直して、俺は今日の商談の準備をした。いつもは別の社員が担当するのだが、今日はとある理由から俺が担当することになっていた。

約束の時間から20分遅れて、ドアが開いた。

「いやあ、遅れてすいません。ちょっと寝坊しちゃって。で、あれ? 木村? なんで?」

やってきたのは王光地だった。俺は何食わぬ顔で、向かいの席に座るよう促す。

「どうして木村がこんなところにいるんだ?」

「だって、ここチャーミングインストルメンタルは俺の会社だからね」

王光地は信じられないといった様子で目を見開いた。

チャーミングインストルメンタルは、俺が高校卒業後、必死に働いて貯めたお金で立ち上げた会社だ。当時は小さな楽器屋だったが、努力の甲斐あって成長し、今では楽器販売業界のナンバーワンに君臨している。

「オルタナティブギターも人手不足なのかな。君みたいな人間をうちの担当にするなんて、どうかしている」

昨日の恨みも込めて、静かに言った。

「それはどういう意味だよ。この俺が、どうかしてるだと?」

王光地は反論してくるが、まだ事態を飲み込めていないようだ。

「今日、いつもの担当者の代わりに社長である俺がわざわざ出てきたのは、あることを伝えたかったからなんだ」

俺はゆっくりと口を開いた。

「悪いけど、これまで再協議してきたうちとオルタナティブギターさんとの9億の契約は、白紙に戻す」

「それはどういうことだ? 説明しろ!」

王光地は怒鳴った。

「説明も何も、昨日の君の行動を自分で振り返れば分かるはずでしょう」

しかし、王光地は自分の行いを振り返ることができないらしい。

「昨日って、別に俺何もしてねえし。わけわかんねえ。冗談抜かすのもいい加減にしろよ。この低学歴の貧乏人が」

俺は思わず吹き出した。

「低学歴は確かに当てはまるけど、もう今の俺に『貧乏人』って悪口は通用しないよ」

王光地は悔しそうに唇を噛んだ。

「まさか、楽器販売でうちの親父の会社より上のチャーミングインストルメンタルが、よりにもよってお前の会社なんて」

「自分で分からないみたいだから教えてあげるけど、昨日の俺に対する君の態度を見て、契約を白紙に戻すことを決めたんだ」

「はあ? あんなの、ただの昔馴染みとのじゃれ合いじゃねえか。高校時代もよくやってただろう。あの程度のことを気にするなんて、お前も小さい男だな」

王光地は余裕を張って笑う。あんな振る舞いを、この男はじゃれ合いと捉えていたのだ。その事実に、俺は吐き気を催した。

「高校時代から君は常に俺を見下してきて、とても嫌だった。もう二度と顔を見せないでくれ」

俺は王光地を睨んだ。

「ふざけんなよ。そんな偉そうなこと言える立場か。お前は底辺で一生苦しんでりゃいいのに。なんだってこんな大企業で」

王光地は俺の襟元に掴みかかってきた。

「殴りたいなら殴ればいい。その代わり、すぐに警察に通報するからそのつもりで。そんなことになれば、君だけの問題ではなくなるけどね」

俺はあえて挑発した。さすがの王光地も、様々なことが頭をよぎったのだろう。彼が事件を起こしたら、雇っているオルタナティブギターや父親の会社にも批判が押し寄せるに違いない。

王光地は鼻息を荒げて睨みつつも、その手をゆっくりと離した。

「昔から後先考えないバカだと思っていたが、案外賢いみたいだ」

俺は思わずふっと笑ってしまった。しかし、それが王光地の癇に障ったらしい。

「この野郎、馬鹿にしやがって!」

王光地はガラス製のローテーブルを思いっきり殴りつけた。ガラスは割れて、破片が散らばる。

「やっぱりこいつはバカだな」

俺は呆れ返った。自分の思うようにならないと物に当たり散らす。まるで幼い子供だ。

今回の行動は器物損壊にあたるので、俺はすぐに警察に通報した。王光地は獣のように叫び続けている。

「これまでのこと、そして昨日のことをきちんと謝罪するように」

俺は促したが、王光地は激しく首を横に振った。

「なんでお前ごときに俺が頭下げねえといけねえんだよ」

この男は反省することもできないらしい。俺はもう何を言っても無駄だと思い、諦めることにした。

警備員が駆けつけ、俺は事情を伝えた。その間も王光地は暴れ続けている。警備員が取り押さえようとするが、一向にやめようとしない。

これが奴の人生にとって最後の悪あがきになるのかもしれない。そう考えると哀れだが、全ては自業自得だ。

間もなくパトカーが到着し、警察官たちが王光地を連行しようとした。奴は相変わらず大暴れしたが、警察官たちにあっという間に制圧され、パトカーに乗せられた。

「覚えてやがれ、貧乏人め!」

王光地はパトカーに乗せられる直前、そう捨て台詞を残した。さっきも言った通り、俺はもう貧乏人ではないのだが。

遠ざかるパトカーのサイレンを聞いて、俺はようやくほっと胸を撫で下ろした。昨日感じた胸の怒りが、すっと消え去ったのを確かに感じた。

その後、王光地は警察で取り調べを受けた。父親にお金を出してもらって釈放されたらしいが、待っていたのは厳しい現実だった。オルタナティブギターは今回の件で王光地を即日解雇。そして、唯一の頼りである父親からも勘当されてしまった。

路頭に迷った王光地は、元から金遣いの荒いタイプだったこともあり、すぐに貯金が尽きた。金に困った王光地は適当な女性を引っかけてヒモ暮らしをしていたが、浮気がバレてその家も追い出されたようだ。

自らを反省することのできない王光地のような人間は、これから一生浮上することはできないだろう。

一方、俺は充実した毎日を送っている。仕事は順調で、最高益の見通しが立っている。プライベートでは、同窓会で再会した小笠原と高校時代のように付き合っている。今夜も彼と飲みに行く約束をしているくらいだ。

今夜の飲み会には、もう一人ある人が参加するらしい。それはかつてのマドンナ、井上さんだ。どうやら大学が一緒だった小笠原と井上さんは、いつの間にか親しくなっていたようだ。俺の井上さんへの想いを知った小笠原が、飲みの席をセッティングしてくれたというわけだ。

なんともありがたい限りだ。これからも周りへの感謝を忘れずに、頑張っていきたい。

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