残業で帰りが遅くなった私は、真冬の夜空の下を一人で歩いていた。十二月の金融系の仕事は繁忙期で、連日残業が続いていた。その日もようやく仕事に区切りがついたのは、ずいぶん遅い時間だった。同じ部署の仲間はとっくに帰っていて、会社には私一人だけが残っていた。
駅までの道は、この時間になると人通りがめっきり減る。不審者が出ても誰の目にも留まらないような、静まり返った夜道だった。タクシーを使えば安全かもしれないが、歩いて数分の距離で使うのはもったいない。多少の不安はあったものの、私は歩いて駅へ向かうことにした。
凍てつくような風が吹きつける中、私は黙々と歩みを進めていた。すると前方から、柄の悪そうな七人の男たちが、道の幅いっぱいに広がってバカ笑いしながら歩いてくるのが見えた。絡まれたら厄介だと思い、私は道の端に寄って彼らの横を通り過ぎようとした。
ところが、その中の一人が急に私の方へ体を寄せて、ぶつかってきたのだ。
「うわっ、痛ってえ。」
その男は私から距離を取ると、膝を押さえてうめき声を上げ始めた。
「佐尾さん、大丈夫ですか?」
仲間たちは慌てて彼に駆け寄ったが、すぐに私を睨みつけて言った。
「おい、お前、人にぶつかっておいて謝罪もできないのかよ。」
突然のことに私は驚いたが、言葉の矛盾に気づいて言い返した。
「ぶつかったって、私はちゃんと避けていましたよ。ぶつかってきたのはそっちじゃないですか。変な言いがかりはやめてください。」
「言いがかり?現に佐尾さんとぶつかってるじゃねえか。責任を取るのが常識ってもんだろう。」
何とも立ちの悪い人たちに絡まれてしまった。私は幼い頃から運動が得意ではない。走って逃げ出すという選択肢は最初からなかった。
私が身構えていると、それまで膝を押さえてうめいていた佐尾という男が声をかけてきた。
「若頭の俺にぶつかってくるとは、小娘のくせに大した度胸じゃねえか。」
それを聞いて私は飛び上がって驚いた。
「え?若頭って…まさか、ヤクザの?」
「なんだ、ようやくことの重大さに気づいたのか。俺は西山組で若頭をやっている、西山佐尾だ。」
佐尾はわざとらしく名乗ると、私を見つめたままニヤニヤと笑った。
「ちょうどいいや。ちょっと遊んでいかねえか。社会人なら、自分の責任はきちんと取らないとな。」
そう言って佐尾が私の手首を掴んできたので、私は思いっきり勢いをつけて振り払った。
「嫌です。なんで私が責任を取らなきゃならないんですか?」
「随分と反抗的だな。気に入らねえ。おい、お前ら、こいつを連れて行くぞ。」
佐尾の指示を受けた仲間たちは、私の両腕を掴んで拘束すると、そのままどこかへ向かって歩き始めた。いくら抵抗しても、非力な私にはどうすることもできなかった。
そうして無理やり歩かされていると、彼らは近くの病院の裏まで来たところで足を止めた。
「年末は何かと忙しくてストレスが溜まってたんだよ。さて、たっぷり楽しませてもらおうじゃねえか。」
そう言うや否や、佐尾は私の顔を殴りつけた。
「ちょっ、ちょっと、なんてことをするんですか?警察を呼びますよ。」
「それなら、電話できないように痛めつけるまでだ。」
佐尾が私の足を蹴ったのを皮切りに、待機していた仲間たちも加わって、私は七人に囲まれた状態で殴る蹴るの暴行を受けた。地面にうずくまり、必死に耐えていたが、あちこちから生じる痛みに涙が出そうになった。
しばらくすると佐尾がこんな提案をしてきた。
「これに懲りたら、若い金として一千万を払いやがれ。ぶつかってきたことも、それで許してやるよ。」
「嫌ですよ。第一、ぶつかってきたのはそっちの方なんですから。私、あなたがわざと寄ってきたのを見ていたんです。」
私はそう言い返したが、佐尾は何も答えずに片手を上げて仲間たちに合図を送った。再び暴行が始まる。
「佐尾さん、もういいんじゃないですか?こいつももう俺たちの怖さが分かった頃でしょうし。」
「いいや、まだだ。もっと痛めつけてやらねえと気が収まらねえんだよ。」
苦痛に顔を歪める私を見ながら、佐尾は愉快そうに笑っていた。
「ここが病院だからって安心するなよ。しればしるほど、痛めつける時間が長引くだけだからな。そうなったら、ここで治療を受けても、どうせすぐに墓場行きだぞ。」
どうしてあの時、一人で帰る選択をしてしまったのだろう。タクシー代をけちったばかりに、こんなことになってしまった。私は後悔の念に駆られていた。
「分かりました。父に連絡して、お金を用意してもらいます。」
それを聞いた佐尾は仲間たちに指示を出して、私を乱暴に引っ張り起こした。
「お前、分かっているよな。警察に通報したら只じゃおかねえぞ。電話が終わるまで、そばでちゃんと聞いてっからな。」
佐尾たちにじっと見つめられる中、私はポケットからスマホを取り出し、震える指で画面をタップした。何度か発信音が聞こえた後、私の父親である白金改造が電話に出た。
「かえ、どうした?今日はまたずいぶんと帰りが遅いじゃないか。」
「うん、もう仕事は終わって会社を出たところなんだけど…」
話しながら私はちらりと横を見た。佐尾は私を凝視しており、そこから動く気配はない。
「あれ?もしもし。おかしいな。もしもし。」
佐尾と仲間たちが怪しそうに顔を寄せる中、私はスマホを耳に当てたまま、その場から離れようとした。
「おい、待てよ。まさか逃げるつもりじゃねえだろうな。」
仲間の一人が慌てて私の肩を掴んできたが、私はここぞとばかりに凄んで見せた。
「電波が悪いんだからしょうがないでしょ。父と通話ができなければ、お金を用意することもできませんよ。それでもいいんですか?」
すると相手も言葉に詰まったようで、それ以上引き止めることはしなかった。少し距離を取ったところで、私はようやく父との電話を再開させた。
「何やら揉めているようだが、何かあったのか?」
「それが、帰り道でヤクザがぶつかってきて因縁をつけてきたのよ。七人掛かりで私を殴ってきて、若い金として一千万払えって脅されているの。」
父には申し訳ないが、佐尾たちから逃れるためにはお金を払うしか方法はないだろう。私は自分のいる場所を説明し、現金を持ってきて欲しいと伝えた。
ところが、しばらく沈黙が続いた後、父から帰ってきた言葉は意外なものだった。
「そいつの所属している組は分かるか?」
「え?うん。西山組の若頭って言っていたわ。」
「分かった。すぐに向かうから待ってなさい。」
それを聞いて私は内心驚いた。父は本当に一千万を用意するつもりなのだろうか?
「大丈夫だよ、かえ。お父さんに任せなさい。」
浮き足立つ私をよそに、父はそう言って電話を切った。
「おら、電話が終わったならこっちに戻ってこい。」
私は近づいてきた仲間によって佐尾の元へと連れ戻された。
「それで、お前の親父は金を持ってくるって言ったのか。」
街灯の明かりが乏しい中、うっすらと浮かび上がった佐尾の姿は凄まじいまでの威圧感を放っていた。それを前にして、今さらながら体が震えてしまう。
「ええ、言っていましたよ。すぐに用意してこっちへ向かうって。」
「どうも怪しいな。お前、他に余計なことは話していないだろうな。例えば、親父の方から警察に連絡してほしいとか。」
「そばで聞かれていたら、できるわけないですよ。場所を説明して、お金を持ってきて欲しいとしか伝えていません。」
しかし佐尾は納得していない様子で、訝しげに首をひねっていた。
「やっぱりなあ。スマホなんかあるから余計な心配をするんだ。最初からこうしてりゃよかったんだよ。」
そう言うと、佐尾は私の手からスマホをひったくり、それを遠くへ向かって投げ捨てたのだ。スマホはしみの中に落ち、辺りが暗いことも相まって、肉眼では探せない状況になってしまった。
「へっへっ。これならGPSを頼りに捜索したところで無駄ってもんだ。」
それから一体どれほどの時間が経過しただろう。虎視眈々と私を疑い脅してくる佐尾たちに怯えていると、闇の中からこちらへ向かってくる人影が見えた。
「待たせたな、かえ。」
暗闇から聞こえてきた父の声に、私は安堵の表情を浮かべた。だが、次の瞬間、それは驚愕へと変わった。やってきた父は、普段目にしたことのない黒いスーツ姿だったのだ。
見慣れない服装の父に困惑している横で、佐尾が一歩身を乗り出して父に話しかけた。
「てめえがこいつの父親か。見たところ手ぶらのようだが、ちゃんと金は持ってきたんだろうな。」
「その前に確認したい。娘とぶつかったと聞いているんだが、お前の怪我の具合はどうなんだ?」
質問を質問で返されたので、佐尾は苛立ちをあらわにして答えた。
「怪我なんかしているもんか。いいからさっさと…」
そう言いかけた佐尾は、父の背後へ目をやった途端、固まってしまった。それは仲間たちも同様で、目を大きく見開いた状態で立ち尽くしている。
暗くて気づかなかったが、父の後ろには父と同様にスーツを着用した男たちが立っていたのだ。その人数は、ざっと見積もっても五十人はいるだろう。
「おい、お前、やっぱりさっきの電話で余計なことを言ったんだろ。」
佐尾は慌てた様子で私に突っかかってきたが、困惑しているのは私も同じだった。
「何も言ってないわよ。お金を持ってきてほしいとしか。この人たち、何なの?」
私と佐尾が言い争いをしていると、父は再び佐尾へ声をかけた。
「ちなみに一千万が必要だと聞いたんだが、それは治療費に当てるつもりか?お前は娘とぶつかった被害が一千万に相当するとでも言いたいのか?」
お金の話が出た途端、佐尾は冷静さを取り戻したらしく、私を脅してきた時のように意地を張って答えた。
「ああ、そうだ。何せ俺は被害者だからな。」
「被害者ねえ。その割には元気そうじゃないか。それを言うなら、うちの娘の方がボロボロの怪我だらけで、被害者に見えるんだが。」
「うるせえ。こっちは怪我をしているんだよ。昔、膝を怪我しているから、今回の件で悪化したんだ。その責任を取らせるのが悪いことだっていうのか。」
佐尾は無気になって吠えたが、父はにやりと笑って言った。
「ちょうどいい。この病院に俺の知り合いの医者がいるんだ。見てもらおうじゃないか。」
医者という単語が出た途端、佐尾の勢いは火が消えたように止まった。
「いや、別にそこまでする必要は…」
佐尾が目を泳がせて返答したその時だった。
「さ、佐尾さん。」
仲間の一人が佐尾の腕を掴み、震えながらある方向を指差した。
「おい、やめろ。急に変な声を出すんじゃねえ。」
「あそこ、あそこにいるやつ。白金組の組員ですよ。」
「なんだって?それってまさか、あの白金組か?」
困惑する佐尾に向かって、父はきっぱりと宣言した。
「ああ、そうだ。ここにいるのは全員、白金組の組員だ。さあどうする?これ以上揉めるなら、こいつらが黙っていないぞ。」
父が言い終わると同時に、集団が佐尾たちに向かって近づき始めた。佐尾はしぶしぶ同意した。
「わかった。見てもらう。」
さすがにこれだけの大人数で病院に入るわけにはいかない。これ以上私に手を出さないよう、佐尾の仲間を集団に監視させると、父と佐尾は病院の中へ入っていった。
それからしばらくして、父と佐尾、そして父の知り合いである医者が病院の裏までやってきた。
「診察ついでで済まないが、さっきの診断結果をここにいる連中にも伝えてやってくれないか。医者のお前が説明してくれた方が、こいつらも納得するだろう。」
医者は父の申し出に頷き、私と仲間たちに向かって言った。
「この人の膝は腫れてもいないし、水が溜まっている様子も見られません。健康そのものです。これは一千万に値する怪我ではないですね。」
一千万という言葉が出たところを見るに、どうやら診察している間に佐尾が私に一千万を要求した件を聞いたようだ。すると、私の推測を裏付けるかのように医者は続けて発言した。
「本当にかえでさんにそんな要求をしたのですか?それじゃあ、あなた方のしていることは脅迫ですよ。」
「佐尾さん、これは叱られるべきですね。」
「ああ、全くもってその通りだな。」
父が頷くと、集団が素早く反応して佐尾と仲間たちを取り囲んだ。
「なんで小娘のお前が白金組の組員たちを差し置いているんだよ。」
「いや、待てよ。まさかお前、白金組の幹部か何かなのか?」
佐尾が疑問を口にした時、集団の後ろから凛とした声が聞こえてきた。
「バーカ、そのお方は幹部ごときで収まる人間じゃねえんだよ。」
集団の一部が両脇へ避けると、そこに一人の人物が立っていた。その姿を見た佐尾の体が、これまで以上に震え出す。
「あ、あなたは…白金組の組長のエジさんじゃないですか?」
「ほう。ちゃんと俺を覚えていたか。お前の親父である西山組の組長とは、古い付き合いだからな。」
田村エジを名乗ったその人物は、父に目配せすると再び佐尾に向かって言った。
「このお方はなあ、白金組を始めにいくつもの組を束ねている総長様なんだよ。まあ、本家での会議に一度も参加したことのねえお前は知らねえだろうけどな。」
佐尾たちがやり取りをしている横で、私は父から説明を受けた。父は本物のヤクザであり、そのことは母も周知している。今まで私に隠していたのは、私が権力を傘に着るような人間に育って欲しくないという両親の意向によるものだった。そのため、普通の家庭と変わらない生活を送っていたのだという。
そういえば父は昔から「仕事だ」と言って、何日も家を開けることが多かった。当時は不思議に思わなかったが、今にして思えば明らかに不審な点が多々あった。しかし、それがヤクザの仕事であると考えれば、全て合点がいく。
「黙っていてすまない。いつかは打ち明けようと思っていたんだが、こんな形になってしまって。」
「そんなことないよ。夜道を一人で帰ろうとした私も悪いし、むしろ因縁をつけてきたあいつらの方が悪いのよ。」
そんな話をしている一方で、佐尾たちはエジに睨まれていた。
「どうしてお嬢が怪我をしているんだ?」
「そいつが俺にぶつかってきて、生意気な態度を取ったから袋叩きにしてやったんだけど、自業自得だろ。自分の非を認めなかったんだからな。」
その言葉を聞いて、父が怒りをあらわにして言った。
「何が自業自得だ。怪我の一つもしていないくせに、寄ってたかって娘をボコボコにして、あげく一千万なんて脅し金を要求しやがって。それでよく被害者を名乗れたな。」
父の言葉を聞いたエジは、にやりと不適な笑みを浮かべた。
「だとさ。さて、お嬢に手を出した報復を与えてやろうじゃねえか。」
集団がじりじりと近づき始めたので、佐尾は落ち着かない様子で周囲を見ていたが、急に仲間たちの方を指差して言った。
「お、俺は指示を出してねえ。やったのはこいつらなんだ。俺は悪くねえ。」
「ああ?ちょっと待ってくださいよ。最初にやれって言ったのは佐尾さんじゃないですか。」
仲間たちが非難の声をあげる中、佐尾はさも当然のように続けた。
「お前ら、俺の部下のくせによくもそんな口を聞けるな。俺の身が危険になったら、即座に身代わりになるのが当たり前だろう。どんな罪でも被り上がれてんだ。」
「そんなの、おかしいですよ、佐尾さん。非常識だとは感じていましたが、ここまでひどい人だとは思いませんでしたよ。」
見苦しい言い争いをする佐尾たちを見て、エジは愉快そうに笑った。
「こりゃ傑作だ。我が身可愛さに、大事にすべき部下をいとも簡単に捨て駒にするとはな。ああ、見苦しい。こんな奴が若頭とは、お前らも大変だな。」
佐尾をじっと見つめたまま、仲間たちが頷いてエジに賛同する。
「はい。情けない話ですが、エジさんのおっしゃる通りです。」
エジは笑うのをやめると、佐尾に向かって言った。
「怪我をしていないお前が一千万なら、ボロボロになっているお嬢への治療費は五千万ってところだな。どうだ。これは妥当な金額だよな。」
意見を求められた仲間たちは、エジの提案に賛同した。
「いいんじゃないですか。いつも威張っている佐尾さんに、いい目に遭わせるいい機会です。」
「ふっ、それなら金額を倍にしよう。一億だ。今すぐに払え。」
それを聞いて佐尾は大慌てに狼狽した。
「って言ったって、そんなの無理に決まってる。払えるわけがねえよ。」
「そうかよ。そんなに不服なら、力で解決する方法を取ろうじゃねえか。」
エジの発言を受けて、集団が佐尾たちを取り囲んだまま、徐々に輪を狭めていく。その威圧に耐えきれなくなったのだろう。腰を抜かした佐尾は、その場に尻もちをついた。
「いや、やめろ。やめてくれ。」
子供のように泣き叫ぶ佐尾の姿を目の当たりにして、仲間たちは苦い表情で頭を抱えた。
「ああ、なんて情けない。」
「頼む。こいつらを好きにしていいから、俺を見逃してくれ。こいつらが勝手にやったことなんだ。俺は悪くないんだよ。頼むから。」
「そんな、違うんです、エジさん。俺は途中で止めようとしたんですよ。それなのに、佐尾さんが止めるなって言うから、仕方なくやっただけなんです。」
罪をなすりつけ合う佐尾たちを前に、エジはのんびりした様子で語り始めた。
「最近、西山組が小娘に手を出し始めたという噂を聞いたんだが、今回の件ではっきりしたな。こっちで調べる手間が省けたってもんだ。いやあ、大助かりだよ。」
嫌な予感がした佐尾と仲間たちは、言い争うのをやめてエジをじっと見つめた。
「噂が本当なら、潰そうと思っていたところなんだ。現場を押さえられたからには、言い逃れはできねえよな。佐尾、お前を破門にするぞ。」
「勝手なことを言わないでください。第一、エジさんに俺を破門にする権利なんて…」
そう言いかけたところで、佐尾はハッとした。再びエジが不適な笑みを浮かべる。
「もう忘れたのか。西山組は白金組の傘下だ。つまり、お前の親父にお前を破門にするよう命じることもできるんだよ。潰すも沈めるも、俺のさじ加減次第だぜ。」
その一言が引き金となり、顔を真っ青にした佐尾と仲間たちは、慌ててその場に土下座した。
「申し訳ありませんでした、エジさん。もう二度とこのようなことはしませんので、勘弁してください。」
エジに謝罪する佐尾たちを目の当たりにして、腹を立てた父が声を荒げた。
「相手が違うだろう。まずは娘に謝るのが常識じゃないのか。」
すると佐尾たちは、這うようにして私の前に土下座した。
「本当に申し訳ありませんでした。お嬢さん。許してください。」
「総長、もういいですよね。正直、俺も組員の奴らもこいつを殴りたくてうずうずしているんです。」
「ああ、もちろん。思う存分暴れてやりなさい。」
父の同意を受けてエジが指示を出すと、集団は一斉に佐尾たちに殴りかかった。
「いてえ、いてえよ。これからは心を入れ替えて真面目にやりますから、許してください。」
集団から殴る蹴るの暴行を加えられ、泣き叫ぶ佐尾と仲間たち。その光景を眺めていると、父と医者が私を助け起こした。
「さあ、かえ。立てますか?こんなにボロボロなんですから、すぐにでも治療しましょう。」
絶叫する彼らを横目に、私は父に支えられて病院の中へと向かうのだった。
それから十日後、すっかり元気になった私は、父に佐尾たちの結末を尋ねた。
「ああ、西山組なら内部崩壊を起こして潰れたよ。佐尾に愛想を尽かした組員たちが離れたことで、組として機能できなくなったそうだ。自業自得だな。」
案の定、組の崩壊と共に佐尾は姿をくらました。だが、そこは白金組が黙っていなかった。優秀な組員によって捕らえられた佐尾は、現在マグロ漁船に乗っているらしい。慰謝料と共に請求された賠償金を払うため、二十四時間の過酷な労働を強いられているそうだ。分割とはいえ、その金額が想像以上に高額だったので、私は面食らってしまった。あれは一体、私の給料の何ヶ月分なのだろう。
「そうだ。今度の週末に、家族三人でお寿司を食べに行こうよ。」
「ああ、そうだな。お母さんも誘っていこう。」
父の正体を知った時は驚いたが、私のピンチに駆けつけてくれた父に、私は誇りを感じていた。今までも、これからも、私の自慢のお父さんだ。



