「親は農家で息子は中卒。俺の娘とは釣り合わんから帰れ」――お見合いの席で、相手の父親にそう言い放たれた。俺は32歳、独身。父と二人で田舎で農業を営む父を支えながら、ITの仕事をしている。お見合い相手は、なんと高校時代の同級生だった。彼女の父親はエリート公務員を自称し、俺の学歴を馬鹿にし、父の仕事を嘲笑った。でも、彼女は父親に反論した。「お父さんのせいで私はこの年まで独身よ」と。その場で父親は…

「親は農家で息子は中卒。俺の娘とは釣り合わんから帰れ」――お見合いの席で、相手の父親にそう言い放たれた。俺は32歳、独身。父と二人で田舎で農業を営む父を支えながら、ITの仕事をしている。お見合い相手は、なんと高校時代の同級生だった。彼女の父親はエリート公務員を自称し、俺の学歴を馬鹿にし、父の仕事を嘲笑った。でも、彼女は父親に反論した。「お父さんのせいで私はこの年まで独身よ」と。その場で父親は...

高校3年の冬、母が倒れた。学校から帰ると、父が肩を掴んで叫んだ。「病院だ!」そこには機械に繋がれた母がいた。「余命3ヶ月」――それが医師の言葉だった。

俺は強し、32歳、独身。母が亡くなってからは父と二人で気ままに生きてきた。余命を告げられた母は、それから随分長く生きた。父が仕事を辞めて田舎に移り、農業を始めて、自分で作った野菜を母に届けていたからだ。母は一度倒れたものの持ち直し、田舎で3年も過ごすことができた。

今、俺は元の街に戻ってIT関係の仕事をしている。父のところへは車で2時間、ドライブが趣味になったから、よく訪れる。父はいつも同じことを聞く。「よし、そろそろ彼女できたか?」俺が歯を食いしばると、父はため息をつく。俺も32歳、父に孫の顔を見せたい。だが、出会いが全くない。

そんな時、取引先の田中さんに突然声をかけられた。「お見合いをしてみないか?」田中さんは気さくな人で、俺のことを気にかけてくれていた。写真を見せられ、「気が合いそうだから」と言われ、会ってみることにした。

当日、父が田舎から出てきてくれた。待ち合わせのホテルに着くと、相手の家族が来ていた。挨拶もそこそこに、相手の父親が口を開いた。「私みたいなエリート公務員の娘の見合いだ。ふさわしいかどうか、いくつか質問させてもらってもいいかな?」

「エリート公務員って自分で言うのか?」俺は飲み込んだ。隣で父も同じ顔をしている。相手の父親は続ける。「君の職業は?ついでに、お父さんの仕事も教えてくれ。」

腹は立ったが、怒りを押し殺して答えた。「IT関係の仕事をしています。父は田舎で農業を……」

「農業?」相手の父親が話を遮った。「それで学歴は?どこの大学だ?」

その質問に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。高校3年で田舎に引っ越したので、高校は中退。父は進学を勧めたが、そのお金があるなら母の治療費に当ててほしいと思い、断った。だから学歴は中卒だ。

「中卒だ」と素直に言うと、相手の父親は馬鹿にしたように笑い始めた。「親は農家で息子は中卒。田中さんの紹介だと思って来てみれば、なんてやつだ。俺の娘とは釣り合わんから帰れ。」

父が立ち上がろうとした。相手の母親と娘も父親を睨む。だが俺は父を制して、笑った。「私は構いませんが、逆に大丈夫ですか?」

「どういう意味だ?」

「田中さんが釣り合うと思ったから、私を紹介したんですよ。その理由が分からないまま、私を見下して『大丈夫か』って聞いているんです。」

父親は俺を睨みつけたが、俺は無視して相手の娘を見た。「あり沙だよな。高校一緒だった。」

「やっぱり強しだよね。」あり沙も嬉しそうに言う。俺とあり沙は同じ高校の同級生。クラスは違ったが部活が同じで仲良くしていた。俺の突然の引っ越しで疎遠になっていたが、当時はよく一緒にいた友達だ。

田中さんから名前を聞いて写真を見せてもらった時、気づいた。明るくて優しくて人気のあったあり沙が、未だに独身なんてことはないだろうと半信半疑だった。でも今日会って確信した。それに、当時あり沙が悩んでいたことも思い出した。

あり沙の父親は怒っている。「おい、あり沙!」

あり沙はめんどくさそうに答えた。「だから、彼は私の高校の同級生。昔仲良くしてたの。もうお父さん、帰ってくれない?」

俺は目を丸くする。父親は激怒した。「お前も一緒に帰るんだ。農家の親と中卒の息子なんて、ろくなもんじゃない。どうして田中さんはこんなやつを紹介したんだ。」

顔を真っ赤にする父親に、あり沙は強気だ。「お父さんのところが嫌なの。おかげで私はこの年まで独身よ。それに彼が中卒なのは理由があるんだってば。」

「理由?どんな理由だろうと、中卒は中卒。世の中学歴なんだよ。俺みたいなエリートに言わせれば、中卒なんてありえない。大学なんて卒業して当たり前だ。」

「なんて傲慢に生きているわけないだろう。人を見下せば気が済むのか。」俺も反論しようとしたその時、今まで黙っていたあり沙の母親がバンと机を叩いた。

「私はあなたに言ってるのよ。人を学歴で見ないで。その態度、あなたのどこがそんなに偉いの?あなたなんて、親がお金を出したから私立大学に入れただけ。親のコネで今の勤め先にいるだけ。あなたのご両親は立派だけど、あなた自身はどこも尊敬できないのよ。」

いきなりの発言に驚いた。確かにあり沙が言っていた。自分の父親は人のことを見下してばかりで、一緒にいるのが恥ずかしくなると。それが当時あり沙の悩んでいたことだ。

あり沙が父親を問い詰める。「そうよ。その態度やめてって言ってるよね。昨日も言ったよ。どうしてそうやって私の邪魔ばかりするの?」

「邪魔とは何だ?俺はお前の幸せを思って……」

「相手を否定することがどうして私の幸せにつながるのよ。今の一番の幸せは、お父さんが今すぐここから出ていくことよ。」

「な、なんてことを言うんだ。そんな娘に育てた覚えはないぞ。」

「私だってお父さんに育てられた覚えなんてないわよ。お金を出してもらったのは感謝してるけど、お父さんらしいことなんてしてくれてないじゃない。全部お母さんが面倒見てくれた。だってお父さんはいつも浮気ばかりして、家にも帰ってこなかったじゃない。」

俺は驚いて止めようとした。「おい、あり沙、ちょっと落ち着けって。」

でもあり沙は止まらない。あり沙の母親は横で頷きながら父親を睨みつけている。すると父親はいきなり慌て始めた。「お前、どこでそれを……いや、そうじゃなくて……娘と妻は知らないと思っていたのか。」

いきなり父親はスマホを取り出し、操作しながら言った。「ちょっと仕事の電話だ。俺は先に帰るからな。」

見え透いた嘘をついて、逃げるように席を立って出ていった。

父親がいなくなると、あり沙と母親は俺たちに向かって頭を下げた。俺の父は慌てて立ち上がり、「そんな、頭をあげてください」と言って、俺の肩を叩いた。「あり沙さん、こんな息子でよかったら、お話だけでも。」

そんな父の姿に俺は笑ってしまうと、あり沙も続けて笑った。

その後、あり沙とは昔の話も今の話もして、俺は思い切って交際を申し込んだ。「実は高校時代ずっとあり沙のことが好きだったんだ。周りに冷やかされるのが嫌で言えなくて、せめて卒業の時には言おうと思っていたけど、それを待たずに引っ越してしまった。」

あり沙は笑って受け入れてくれ、俺たちは結婚を前提に付き合い始めた。

俺は見合い話を持ってきてくれた田中さんに経緯を話した。「聞いていた通り、あのお父さんはちょっと受け入れられませんでした。」田中さんは事前に「先方の父親は失礼な人だけど、娘さんはいい子だから」と聞いていた。

それから半年後、俺はあり沙に婚約指輪を送り、結婚に向けて進み出した。でもその前に、ちょっとした用事に付き合って欲しいという。俺はあり沙の実家に向かった。

お母さんが迎えてくれて、中に入るとお父さんもいた。お父さんは相変わらずで、顔を合わせると俺を睨みつけてきた。「お前、田中さんに何か吹き込んだろ。おかげで俺は職場で影口を叩かれるようになったんだぞ。大体、お前なんかがどうして田中さんと繋がりがあるんだ。あの人は農林水産省の人間だぞ。中卒のお前なんかが気軽に話せる人じゃないんだ。お前なんかに娘を幸せにできるはずがない。娘とは結婚させないからな。」

自称エリート公務員の父親は、実は市の農林振興課の窓際族らしい。誰に対してもその態度だから、周りの評価は悪い。今回の件で浮気のことも職場にバレて、白い目で見られているというが、それは自業自得というやつだ。

不機嫌に当たり散らされるけど、俺はひるまない。「田中さんは元々あなたの態度に問題があったと言っていましたよ。それと、お見合いの時は話すら聞いてくれませんでしたけど、俺は高校の機会化でロボット技術も学んだんです。母の病気療養のため高校3年で中退しましたけど、今は学んだ技術を生かして農業のIT化をする仕事をしています。父は農家ですが、昔は農林水産省にいて、田中さんはその時の上司でした。今父は俺と一緒にスマート農家として色々開拓しているので、田中さんとは今でも付き合いがあるんですよ。」

お父さんは驚いて俺を見てきた。俺はきっぱりと言う。「一応中卒の俺でも、あり沙さんと一緒に生活していくには問題ない収入はあります。それにお母さんに結婚の許しはもらっているので、お父さんに許しをもらうつもりはありません。」

そこまで言うと、お父さんは激怒する。「ふざけるな。俺が許さなければ、あり沙の結婚はない。」

するとお母さんが1枚の紙を持ってくる。離婚届だ。

それを見たお父さんはもちろん怒り散らす。「どういうつもりだ?」

あり沙が俺に付き合って欲しいと言った用事はこれだった。お母さんが離婚を決意しているから、立ち合って欲しいと。お母さんはお見合い結婚をさせられたそうだ。浮気をしていても、我慢することしかできなかった。それでも耐えてきたのは、自分の娘に不自由をさせないため。成人してからは片親だと結婚にも不利なんじゃないかと思っていたらしい。まあ実際のところ、この父親ならいない方が良かったかもしれないとあり沙も言っていたけど、とにかくあり沙の結婚が決まってその必要がなくなり、さらに重大な事実が発覚。ついに離婚を決意したらしい。

俺はお母さんの代わりにお父さんの前に出る。「お母さんはあなたの浮気の証拠を掴んでいて、弁護士にも相談しています。もういい加減、お母さんを解放してあげましょうよ。」

「うるさい。よそ者が口を挟むな。大体、お前、離婚なんてしたらどうやって生活していくんだ。働いたこともないお前が1人で生きていけるはずないだろう。お前は一生俺に尽くしていればいいんだ。」

傲慢な態度に、その場にいる全員がため息をつき、俺は口を開く。「大丈夫です。お母さんの働き口はもう確保してありますから。それに浮気の慰謝料や浮気相手に注ぎ込んだ費用のことを考えると、お母さんにはそれなりのお金が入るので、しばらくは生活の心配もいらなくなりそうですよ。」

浮気相手に貢いでいたのは昔からで、つい最近車まで貢いだことが発覚。お母さんも堪忍袋の緒が切れたそうだ。当然弁護士もその分は財産分与で差し引いてもらうと言っているらしい。

お母さんはもう一度離婚届を突きつけた。「今すぐ書いてくれないなら、あなたの両親にも全ての事実を報告します。どうするの?」

するとお父さんは青ざめていく。どうやらこれだけ傲慢なことをしていても、両親には頭が上がらないらしい。そりゃ両親に知られたら、コネで入ったも同然の勤め先にも影響が出るだろう。ちなみにエリート公務員と豪語していたが、ただの地方公務員だった。エリートなのはその両親だけ。自分には何の実力もなく、親の七光りで生きている。それでも親が健在なうちは何の苦労もなくここまで来ていた。でも制裁はきっちり受けてもらわないと。

俺は無言でボールペンを渡した。するとお父さんは唸りながらそれに記入をする。お母さんはそれを受け取り、まとめていた荷物を持ってきた。それを見たお父さんは愕然とする。「お前、荷物までまとめて。」

俺はその荷物を持った。「お母さんは俺の家族でもあるので、俺が責任持って新しい住居に送り届けますから、ご心配なく。あなたの荷物も近いうちに取りに来ますね。」そう言って荷物を車に積み込み、あり沙とお母さんを乗せて出発した。

2時間後、俺たちは目的地に着いた。「おお、着いたか。」父が出迎えてくれる。お母さんが離婚したいと言っている時に相談に乗り、少し遠いけど父のところで働くのはどうかと提案したら、「今まで住んでいた土地に何の未練もないから、是非お願いしたい」と言われた。父は近くにマンションを探してくれていて、お母さんはそこに移り住み、新しい生活が始まる。

その後、お母さんは無事に離婚が成立し、財産分与も慰謝料もきっちりもらったそうだ。今では前よりも生き生きとしている。お父さんは慰謝料が払いきれず家を手放すことになり、結局そこから両親にバレたらしい。両親に勘当されたおかげで職場での目も厳しくなり、それに耐えられず自慢だった公務員をやめた。余裕だと思っていた転職先は面接でことごとく落ちているという。なんとか雇ってくれたスーパーでは数日でお客さんとトラブルを起こし、今ではまた働き口を探しているそうだ。

俺とあり沙は来月に結婚を控えている。初恋の人に再会できると思っていなかったし、ましてや結婚できるなんて夢のようだ。俺は幸せな人生を歩んでいる。

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