「相手なんてわからないよ」——妹がそう言い放った日、俺の人生は一変した。幼い頃に父を亡くし、母と二人で必死に育ててきた妹は、自由奔放で浪費家。そんな妹が突然、妊娠していると告げた。しかも相手は不明のまま、産むと言い張る。俺は怒りと困惑でいっぱいだったが、生まれてきた姪っ子のあんを見た瞬間、すべてがどうでもよくなった。あんは俺の宝物になった。しかし、妹はあんを置いて家を出てしまい、俺は母と二人…

「相手なんてわからないよ」——妹がそう言い放った日、俺の人生は一変した。幼い頃に父を亡くし、母と二人で必死に育ててきた妹は、自由奔放で浪費家。そんな妹が突然、妊娠していると告げた。しかも相手は不明のまま、産むと言い張る。俺は怒りと困惑でいっぱいだったが、生まれてきた姪っ子のあんを見た瞬間、すべてがどうでもよくなった。あんは俺の宝物になった。しかし、妹はあんを置いて家を出てしまい、俺は母と二人...

俺にはどうしようもない妹がいた。幼い頃に父を亡くし、母が女手一つで俺と妹を育ててくれた。経済的に苦しかったから、中学生の頃から新聞配達をして家計を支えていた。そんな中、妹は自由奔放に育ち、周りから「かわいそう」と言われたせいか、悲劇のヒロイン気質だった。彼女はお金がすべてだと思い込み、かなりの浪費家だった。俺が注意しても、まったく聞く耳を持たない。

高校を卒業すると同時に、俺はアプリ開発の会社に就職した。若い社長が立ち上げたばかりの会社で、勢いがあった。高卒で入れたのは奇跡的で、先生たちには感謝してもしきれない。働き始めて経済的に少し余裕が出ると、母も少し明るくなった。しかし、それをいいことに妹はさらに調子に乗った。勉強をせず高校受験に失敗し、お金のかかる私立高校に通い、さらには美容専門学校に行きたいと言い出した。俺は止めたが、母は妹に甘かった。結局、美容専門学校に通うも中途半端なまま、ある事件が起きた。

ある日、家に帰るとリビングは重たい雰囲気だった。「どうしたの?また何かしたの?」と聞くと、母が今にも泣き出しそうな声で言った。「子供ができただけよ。」俺は固まった。「子供ができたって、どうするつもりなの?」「産むつもりらしいのよ。」妹は「もう学校に行っても意味ないからやめようと思ってるの」と平然と言った。「相手は誰なんだよ。連れてこいよ。」「はあ、うるさいな。いきなり父親しないでくれる?相手なんてわからないよ。」その夜、俺たちは今までにないくらい言い争った。しかし、揉めたところで問題は解決しない。子供に罪はない。

それからの妹は、妊婦であることをいいことに、家でだらだらと過ごす生活を始めた。腹立たしかったが、妊婦の気持ちはわからないから、そっとしておくことにした。しばらくして、妹は無事に娘を産んだ。あんと名付けられたその子は、生まれた瞬間から俺にとって特別な存在になった。自分の子供のようにかわいくて仕方なかった。

しかし、あんが生まれて3ヶ月ほど経った頃、妹は頻繁に外出するようになり、ついには家に帰ってこなくなった。連絡も取れず、音信不通。こうなると、あんを育てるのは俺と母しかいない。母は仕事をやめて子育てに専念し、なんとか3人で生活していけた。妹からは連絡が来る気配もない。

月日は流れ、あんは5歳になり保育園の年中になった。そんなある時、母が倒れてそのまま帰らぬ人となった。あまりにも突然の出来事で、頭が真っ白になった。何より、あんが本当の母親のように懐いていたから、あんのメンタルが心配だった。妹は母の葬儀にも現れなかった。この日を境に、俺とあんの2人暮らしが始まった。

会社には事情を説明し、協力をしてもらう必要があった。みんなはとても優しくしてくれた。社長は「うちの会社は男が多いからな。困ったら部長に聞いてみるといいよ」と提案してくれた。正直、俺は部長が苦手だった。部長はとても美人で仕事もできるが、すごく落ち着いた人で、なんとなく近寄りがたかった。

あんの父親代わりになって気づいたことがある。保育園はイベントが多い。その度に母のありがたみを感じるとともに、自分の無力さを感じていた。おそらくそれが無意識のうちに溢れ出していたのだろう。ある日、部長に呼び出された。「こうくん、最近なんか様子がおかしいけど大丈夫?何かあった?」「すみません。仕事には影響が出ないようにしてきたつもりだったんですけど、気持ちを入れ替えて頑張ります。」すると部長は深いため息をついた。「こういうことが言いたいんじゃないの?私は何か手伝えることはないかって思ってるのよ。」予想外の言葉に胸が熱くなった。「いつも言っているけど、困ったことがあったらすぐに言いなさい。みんなもあなたのこと心配してるのよ。子育てが大変なことも分かってるから。」「部長、ありがとうございます。やっぱり1人では色々と難しくて、日常生活も分からないことだらけで、家事にも時間がかかってしまうし、そうするとあんの時間もなかなか作れないし。」「まあ、これまでしていなかったなら家事も大変に感じるだろうね。しかも働きながら子育てもしながらでしょ。誰だって悩むと思うわ。」部長の言葉を聞いて、涙が溢れ出した。「すみません。泣いたって何も解決しないのに、もっと強くならないといけませんね。」「だから私が協力するって言ってるでしょ。保育園は給食なの?」「はい。普段は給食なんですけど、2週に1度のお散歩ではお昼にお弁当を食べるので作らないといけないんです。料理も全然してきたことがないので、とても苦戦していまして。」「お弁当か。確かに難しいわね。」「まあ、お弁当の中身は冷凍食品とかでなんとかやっているんですけど、問題なのは遠足でして。」「ん、遠足に何か問題でもあるの?」「どうやら遠足にはキャラ弁を持ってくる子が多いらしくて、僕も作ってって言われてしまったんですよ。」「なるほど。キャラ弁か。わかった。私に任せなさい。」「え、部長、キャラ弁を作れるんですか?でもさすがに部長にそんなことまでしてもらうわけにはいきません。自分でなんとかしてみます。」「はあ。自分でなんとかするって、できないことが分かってるんでしょ。私がなんとかするって言ってるんだから、素直にやってもらったらいいじゃない。それとも私が代わりにお弁当を作ることに何か問題でもある?」「いえ、問題なんてとんでもない。ただお弁当を作るとなると朝早いですよ。」部長は微笑んだ。「私、朝5時に起きてランニングをしてから出社してるんだけど、それよりも早起きしなくちゃいけないの?」「そうなんですね。5時に起きれば十分かと。」「だからそんな心配しなくていいのよ。それでどんなお弁当をリクエストされたの?」俺は部長の言葉に甘えて、あんにリクエストされたキャラクターの写真を見せた。「ほお。これはなかなか難しいわね。初心者にはハードルが高いわ。」「そうですよね。あんからこれを作ってって言われて、そのことで頭がいっぱいでした。ああ、でも仕事中はちゃんと仕事のことを考えていますよ。」「分かってる、分かってる。じゃあその写真、私に送っておいてくれる?」「すみません。よろしくお願いします。ちなみに遠足は来週の火曜日です。」「オッケー。分かったわ。じゃあ仕事に戻りましょうか。」本当にかっこよくて頼れる上司だ。

遠足の日、朝7時に家のインターホンが鳴った。「おはよう。約束通りお弁当持ってきたよ。」「部長、おはようございます。本当に作ってきてくれたんですね。ありがとうございます。とりあえず上がってください。」突然現れた綺麗なお姉さんにあんは驚いていた。「あんちゃんおはよう。見てみて。お姉ちゃんね、可愛いお弁当作ってきたんだよ。」「あん、このお姉さんはパパの会社の先輩なんだ。今日はあんのためにお弁当を作ってきてくれたんだぞ。」「そうなの?嬉しいな。」「そっか。嬉しいか。あんちゃんが嬉しいならお姉ちゃんも嬉しいな。」「お弁当を見てみる。」「後でのお楽しみにする。」「そう。偉いね。また感想聞かせてね。」部長は俺が30分近くかけて結んだあんの髪を見て、「髪の毛ってこれでいいの?変ですか?結構自信あったんだけどな。」「あんちゃん、どう思う?」「パパ頑張ってくれたから。」「微妙だったかな?」「あんちゃんは優しいんだね。お姉ちゃんがやってあげるからこっちおいで。」そう言って部長は手際よくあんの髪を結び直した。5分もかからないうちに可愛い髪型が出来上がった。「すごい。とっても可愛い。」「うん。とっても似合ってるよ。」あんは嬉しそうに何度も鏡を見ている。こんな嬉しそうにしてるあんを見たのは初めてかも。「よかった。」「じゃあ私はそろそろ会社に向かうね。」「え、やば、もうこんな時間か。部長、ありがとうございました。また後ほど。」部長は家を出ていった。本当に何でもできるすごい人だな。

ご機嫌なあんを保育園に送り届け、俺も会社へ向かった。そこにはいつも通りの部長がいた。「部長、おはようございます。さっきはありがとうございました。あんもすごく喜んでいました。」「あんちゃんとても可愛いわね。朝から癒されちゃった。」部長はそう言って俺に携帯の画面を見せてきた。そこには今日作ったお弁当の写真があった。「え?これ全部部長が作ったんですか?」「そうだけど。もしかして疑ってる?私、1人暮らし歴が長いから料理はそれなりにできるの。」「いや、これSNSに投稿してるインフルエンサーよりも上手ですよ。」部長は照れながら返した。「そんなに褒められると恥ずかしいでしょう。こういう細かい作業が好きなだけよ。またいつでも言ってね。お弁当作るから。」「本当にありがとうございました。」今思えば、この頃から部長に惹かれていた。

仕事が終わり保育園に迎えに行くと、思っていた通りあんのテンションは高かった。「今日のお弁当すごかったですね。クラスのお友達も羨ましがっていましたよ。」「そうなんですね。ありがとうございます。って言っても僕が作ったわけじゃないんですけどね。」「なんかあんちゃんが、綺麗なお姉さんが作ってくれたって嬉しそうに言っていました。それに可愛い髪型もみんなから大人気でした。素敵な方なんですね。」先生は事情を汲み取ろうとしてくれたが、俺は慌てて否定した。「ああ、その人は僕の上司の人で、特別な関係ってわけじゃ… 」「そうなんですね。まあでもあんちゃんが嬉しそうならそれでいいですよね。」恥ずかしさと嬉しさが交差して複雑な心境だった。きっと俺の彼女だと思ってるよな。

その帰り道、機嫌のいいあんはいつも以上に俺に話しかけてくれた。その内容はお弁当と髪型を褒められたことばかり。あんは今までずっと我慢していたんだろうなと思うと心が痛くなった。家に帰ると、あんは突然お絵描きを始めた。「できたよ。これお姉ちゃんに渡すの。」そう言って見せてくれた絵は、髪を結んでいる部長と嬉しそうにしているあんが描かれていた。「上手に書いたね。じゃあこれは明日パパが渡しておくよ。」

翌日、俺は部長にお礼の品とあんから預かった絵を渡した。「部長、昨日はありがとうございました。あんも1日中嬉しそうにしていました。」「それならよかった。お弁当が傾いていないか心配だったの。」「お弁当は大丈夫だったみたいです。ああ、それであんから部長に渡して欲しいって絵を預かってきました。もしよかったら受け取っていただけませんか?」絵を渡すと、その絵を見た部長は突然涙を流し始めた。「ちょ、ちょっと部長。」「ごめんね。これ昨日の朝の絵だよね。私もこの時幸せだったな。とにかくあんちゃんのことが愛しかった。あんちゃんも同じ気持ちでいてくれたんだって思ったらなんか嬉しくて。私またあんちゃんに会いたいから、今度時間作ってもらってもいいかな?」「もちろんです。うちはいつでも大丈夫なので、部長の都合のいい日を教えてください。」プライベートで部長に会えると思うと、俺も嬉しかった。と言っても部長の目当てはあんなんだけど。「じゃあいきなりだけど今晩はどう?一緒に食事とか。」「大丈夫です。あんも喜ぶと思います。是非お願いします。」「よかった。じゃあ決まりね。仕事が終わったら合流しましょう。」

その夜、約束通り部長が家にやってきた。「あ、お姉ちゃん来てくれた。嬉しいな。あのね… 」部長を見た途端、あんはひたすらお話をしていた。部長もあんの話を真剣に聞いてくれて、ちゃんと相槌まで打ってくれている。部長といる時のあんはとにかく嬉しそうだ。そんなあんを見ているだけで俺は幸せだった。「あんちゃん、今日は何食べようか?」「あんはね、駅前のレストランのお子様ランチが食べたいの。」「そうなんだ。じゃあ今日はそこに行こう。」「でも部長、ファミレスなんかでいいんですか?普段ファミレスなんて行かないですよね。」「たまにはいいじゃない。なんかファミレス行きたくなってきちゃった。早く行きましょう。」「やった。」そう言って部長とあんは手をつなぎながらファミレスへ向かった。あんに母親がいたら、こんな風に甘えるのかな。そんなことを考えると胸がちくりと痛んだ。

ファミレスで3人で食事をした。部長がいるのが嬉しいのか、あんはいつもよりもたくさん食べていた。するとあんは突然こんなことを言い出した。「今度の親子遠足にも来てほしいな。お友達はみんなパパもママも来るんだもん。」「あん。そんなに部長を困らせちゃだめだよ。パパが行くからいいでしょ。」すると部長はカレンダーを取り出し、ペラペラとめくり始めた。「あんちゃん、親子遠足っていつかな?」「来月の1日ですね。」「さすがに1日は忙しいですよね。ただでさえ僕が休むのも迷惑かけているのに。」「私も行ってもいい?」「え?お姉ちゃん来てくれるの?」「お姉ちゃんも遠足行きたいもん。」「こうくん、私も行ってもいいかな?」「え、僕たちは問題ないというか、すごく嬉しいというか。でも本当にいいんですか?」「迷惑じゃなかったらね。その日もお弁当がいるんだよね。」「迷惑なんてそんな。そうですね。その日もお弁当はいりますが、さすがにその日は僕の方でなんとかします。」「じゃあその日はお姉ちゃんのお弁当食べられないの?」「大丈夫、食べられるよ。お姉ちゃんがちゃんと作るから安心してね。」「部長、でもいいからいいから。」「私がやりたくてやるんだから気にしないで。」「やった。遠足み。」あんは部長の腕にしがみついた。俺も内心喜んでいた。部長への気持ちはどんどん大きくなるばかりだった。

食事も終わり、少し時間もあったので、近くのショッピングモールに行くことにした。「じゃあ今度の遠足に着ていくお洋服でも見に行こうか。」そう言って部長とあんは、入ったこともないようなおしゃれなお店に入っていった。俺も一緒に入ろうとすると、「こうくんは好きなところ見てきていいよ。私たち一緒に買い物してくるから。」「いいんですか?じゃあATMだけ行ってきますね。」買い物は部長に任せて、俺だけ別行動をすることにした。数分後、店に戻ると2人はとても楽しそうに買い物をしている。何も知らない人が見たら、間違いなく親子だと思うだろう。2人は俺を見つけ、機嫌よく俺のところにやってきた。「ごめんね。お待たせ。」「いえ、こちらこそお任せしてしまってすみません。洋服でしたか?」「お金はいいからいいから。素敵な絵をもらったし、遠足にも連れてってくれるんだから、そのお礼よ。」「すみません。ありがとうございます。」あんはすっかり部長に甘えていて、俺がちょっと嫉妬してしまうほどだった。

数日後、待ちに待った親子遠足の日がやってきた。今回は遠足でクッキーを作るらしく、俺だけでは難しかっただろう。部長が来てくれて本当に良かった。あんはすごく楽しみにしているが、俺も負けないくらい楽しみだった。この日も早朝に部長がお弁当を持って家まで来てくれた。「おはよう。今日は1日よろしくね。」「こちらこそよろしくお願いします。」「これ、あんちゃんのエプロン。」「もしかしてもう買っちゃった?」「いえ、レンタルできると聞いていたので買ってませんでした。」「よかった。じゃあこれも持っていきましょう。」そんな話をしているとあんが起きてきた。「お姉ちゃん、もう来てくれたんだ。」「昨日は楽しみでなかなか寝れなかったから、いつもの時間に起きれなかったよ。」「まだ間に合うから大丈夫だよ。じゃあ今日も可愛い髪の毛にしよっか。」「うん。」あんの目はキラキラと輝いている。物の数分でおしゃれな髪型が出来上がった。「パパ見て可愛い。」この日もあんは鏡の前から動かなかった。「よし、そろそろ行こうか。」「うん。」

3人で遠足に出かけた。あんが言っていたように、ほとんどの子が両親と来ている。部長のおかげで遠足は大成功だった。エプロンもみんな可愛いものを自賛していて、レンタルしている子は誰もいなかった。それどころか、部長が用意してくれたエプロンは部長が手作りしてくれたものだったようで、どのエプロンよりも可愛かった。それによってあんはこれまで以上に部長になつくようになった。しかし俺には嬉しい反面、不安な側面もあった。確かにあんは部長に懐いているが、この生活がずっと続くわけではない。今大きな幸せを感じている分、別れる時の辛さが待っていると思っていたのだ。

今回は秋の遠足だったこともあり、最後には保育園のクリスマスコンサートのお知らせが配布された。「お姉ちゃん、コンサートも来てくれる?」部長はそのお知らせを見ている。「あん、お姉さんは忙しいんだ。また他の時に会えたらいいだろう。」さすがにクリスマス当日に予定を合わせてもらうのは申し訳ない。俺自身も少し期待していたが、来れるかどうかを知るのは怖かった。俺は本格的に部長のことが好きになってしまったようだ。「行ってもいい?私も行きたいな。」「お気持ちは嬉しいですが。本当に無理はしないでください。お時間のある時に僕たちの相手をしてくれたら、それだけで嬉しいので。」「大丈夫よ。クリスマスも特に予定はないから。」「え、じゃあお姉ちゃん見に来てくれるの?」「いいよ。今からすごく楽しみだな。」あんは部長に抱きついた。あんのおかげで次の約束もできたから、別れ際も寂しくなかった。

クリスマスコンサートの日がやってきた。あんは合唱やハンドベルを演奏して、俺はなんだか胸が熱くなってしまった。上着のポケットからハンカチを取り出そうと横を見ると、部長が隣で涙を流していた。「部長。」「ごめんごめん。つい感動しちゃって。」少し恥ずかしそうに俺にそう言った。彼女の姿を見て、さらに胸が熱くなった。コンサートは無事に終わり、俺たちはチキンとピザを買って帰った。夜はそのまま家でクリスマスパーティーをして、それにも部長は付き合ってくれた。この日も1日中楽しくて、俺はこんな毎日がずっと続いて欲しいと思っていた。

コンサートは緊張していたのか、あんはパタッと眠りについてしまった。「部長、今日もありがとうございました。おかげで最高に楽しいクリスマスを過ごせました。部長、この後予定ありますか?」「こちらこそありがとう。私もいい1日だったよ。予定はないわよ。一緒に乾杯でもする?」そう言って部長はシャンパンを取り出した。実は俺もシャンパンを用意していたのだ。しかも全く同じシャンパンだ。「こんな偶然ある?」「本当ですね。すごい偶然。」「じゃあ乾杯しましょうか。」そう言って俺たちは乾杯した。俺たちの話題はあんのことばかり。話が盛り上がってシャンパンも進んだ。「ねえ、これからも保育園のイベントに参加してもいいかな?」「え、本当にいいんですか?遠慮なく誘いますよ。」「いいよ。あんちゃんが成長していく姿を近くで見ていきたいからね。」この日は俺にとって特別な夜になった。お酒の力を借りて告白をしようとも考えたが、先のことを考えた瞬間怖くなってしまい、結局できなかった。

それでも部長はその後のイベントに全て参加してくれて、あんの本当の母親のように接してくれた。俺はこの幸せがどうしたらずっと続くかを真剣に考えていた。そしてあんの卒園式がやってきた。もちろん式には部長も参加してくれた。部長は入場からすでに泣いていて、どの母親よりも泣いていたと思う。その後、俺たちは駅前のファミレスに行った。俺はなんだか寂しい気持ちでいっぱいだった。卒園すれば今までのように行事がなくなるとなれば、こうして3人でいる頻度も少なくなってしまうと思ったのだ。

その晩、家に帰ると「ねえ、パパ、お手紙書いたから読んでもいい?」「あん、いつの間に文字が書けるようになったの?」「ちょっと今更あんちゃんは上手に書くわよ。」するとあんは手紙を読み出した。「お姉ちゃんへ。私はお姉ちゃんのことが大好きです。これからもずっと一緒にいたいし、できたらママになって欲しいです。」俺はあんの手紙を聞いて顔が真っ赤になった。部長の方を見ると、やはり泣いている。あんはそんな部長をぎゅっと抱きしめた。「お姉ちゃんに会えなくなるのは嫌。だからこれからも遊びに来てね。パパも本当は寂しがってるんだよ。」そう言ってあんは泣き出してしまった。その姿を見ていたら、思わず俺も涙がこぼれてしまった。そして俺はある覚悟を決めた。「部長、僕は本気で部長のことが好きになりました。だから僕もあんと同じ気持ちです。これからもずっと一緒にいたいと思っています。結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」すると部長は涙を拭いながら深く頷いてくれた。「なんか幸せなことが起こりすぎて少し戸惑ってるの。ねえ、これって夢じゃないよね。」「はい。夢なんかじゃありません。」「私もこうくんもあんちゃんも大好き。これからもよろしくね。」「じゃあこれからもずっと一緒。」「そうよ。私たちはずっと一緒。」「やった。あん嬉しいよ。」そのままはしゃいで疲れてしまったのか、あんは寝てしまった。こうして俺たちの交際は始まった。

それからも順調に交際期間を重ね、俺たちは幸せな毎日を送っていた。あんの表情もどんどん明るくなっていき、成長と共にいろんなことを話すようになった。職場ではクールな部長も、あんの前では優しい母親の表情になる。今でも毎日のように彼女への気持ちが大きくなっていて、そのおかげで仕事も頑張れる。交際から1年が経ち、俺は部長にプロポーズをした。「部長、僕と結婚してください。」「はい、こちらこそよろしくお願いします。でも1つだけお願いがあるんだけど。」「お願い何でしょうか?」「いい加減部長って呼ぶのやめない?私たち夫婦になるんだよね。」「確かにそうですよね。でも今更呼び方を変えるのはちょっと時間がかかるかも。」「じゃあ3人で呼び名を決めよっか。」「それならできそうじゃない。」そして俺たちはどんな呼び名がいいか、あんに考えてもらった。俺たちは本当の家族になったのだ。これからも3人でもっと幸せな生活を送っていきたいと思う。

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