「あ、この会社もう終わったわね。」
私は心の中でそうつぶやきながら、書類の束を盾に振りました。お嬢さんがそうおっしゃるのなら、それでいいですよ。私は里子さんの目の前で、解雇に関する書類をすらすらと作成しました。そして、これまで事務仕事で行ってきたように、その書類をきちんとファイリングし、里子さんに決裁印を押すように促しました。
里子さんは、私の手際の良さにド肝を抜かれたようでしたが、事務室にある社長の机から社長決裁印を探し出し、ポンと決済欄に押したのでした。
これで私は解雇されました。お世話になりました。
「あ、労務士さんには私から手続きの連絡を入れておきますので。」
この言葉で、里子さんはさらに「自分の力は最強なのよ」と言わんばかりに笑い出しました。
私は大田です。大学の建築学科を卒業してからずっと、品川公務店で働いてきました。この公務店は、自治体からの公共工事を受けられるようになり、下請けとして大手ゼネコンの現場にも参入できるようになりました。さらに、注文住宅部門も好調で、地域のお客様からの問い合わせも増えています。
私には、自分がデザインした建物を地図に残したいという夢がありました。そのため、私は一級建築士の資格を取得しました。品川社長の元で修行を積みながら、施工管理技士の資格も取得しました。その上、仕事で必要な重機の運転技能講習も受けました。今ではユンボはもちろん、クレーンの操作も可能です。大型特殊運転免許まで取得したので、工事現場へ重機を運ぶこともあります。
建設業経理士の資格も持っていると言ったら、みんなに驚かれます。これは、私が入社した頃に個人事業主から法人化した品川公務店だからこそできたことです。まだまだ小さかった公務店を、どんな仕事でも受けられるように大きく育ててきた自負が私にはありました。
その代わり、残念ながら婚期を逃してしまい、お一人様まっしぐらです。職人さんたちはみんな結婚して、「あんたはよほど仕事好きなんだな」と言います。でも、私は「結婚してもただ面倒なだけよ」と思っていましたから、「私も旦那なんて必要ないわ」と笑い飛ばしています。
実際、結婚してもただ面倒なだけだと思っていたので、私は互いに笑い飛ばしていました。
現場は男臭くて、風紀も乱れがちです。そんな中、ある日、見慣れない女性が事務所にふらりと現れました。
「あの、弊社にご用でしょうか?」
私が声をかけると、その女性はきつい口調で言いました。
「うるさいわね。今日から社長になる品川里よ。」
え? 私は思わず言葉を失いました。品川社長には確かに一人娘がいると聞いていましたが、いきなり社長になるとは思いませんでした。
里子さんは、私の机の上にあった書類をちらりと見て、こう言いました。
「あんた、その資格、全部偽物でしょ?」
それは違うわ。私は必死に説明しようとしました。でも、里子さんは聞く耳を持ちません。
「どうせ何もできないんだから、今日でクビよ。」
私は驚きましたが、すぐに気持ちを切り替えました。ここで感情的になってはいけません。私は長年この会社を支えてきたプロです。解雇されるとしても、きちんと手続きを踏んで、清々しく去ってやります。
私は無表情のまま、解雇通知書を作成しました。そして、里子さんに押印を求めました。里子さんは一瞬ためらいましたが、社長の机の引き出しから印鑑を取り出し、ポンと押しました。
「これで終わりですね。お世話になりました。」
私はそう言って、書類を整理し始めました。里子さんは私の対応に少し面食らったようでしたが、勝ち誇ったように笑いました。
でも、私は知っていました。この会社がこれまでどれだけ私に頼ってきたかを。私がいなくなれば、公共工事の手続きや経理の処理が滞ることは目に見えています。それに、職人さんたちからの信頼も厚い私は、営業や現場の調整でも大きな役割を果たしてきました。
里子さんは、きっと後悔するでしょう。でも、もう遅いのです。
私は荷物をまとめ、事務所を後にしました。外に出ると、太陽がまぶしかったです。少し寂しい気持ちもありましたが、それ以上に清々しい気持ちでした。
「さあ、次は何をしようかな。」
私は新しい一歩を踏み出す決意をしました。これまでの経験と資格は、どこに行っても通用します。私はこれからも、自分の夢を追い続けます。
こうして、私は品川公務店を去りました。里子さんはどうしているでしょうか。まあ、私には関係ない話ですね。
でも、彼女に一言だけ言いたいです。「社長というのは、座るだけじゃ務まらないのよ」と。
私の物語は、ここからまた始まります。



